乾いた薄布地−聴診器の眠り

愛って玉が転がりおちた
水球のような濡れた硝子球のなか
真っ赤な金魚の尾ひれのような緋色があって
血の混じるような生の転がりをかんじる
這う舌のたどる濡れた道


一方にぎあう歓楽街の明かりを避けるように
蚊取り線香の逃げていく煙は曲がりくねり
僕は網戸に顔をはりつけて眺めていた
空を写す鏡
小さな水たまりを
斜めの道に月からこぼれた光が
ゆっくりと垂れるように光っていた
僕はそんな静かなところにいる
ただ夜の格子
青い網戸にさえぎられて
静寂(シジマ)の波音以外なにも聞こえない
その砂まみれの傾斜した大地には
だれも立っていない
水面(ミナモ)に突き立った足は
そこに張られた乾いた網目の水平地
その渇ききった冷たさに
耳をなでられながら
薄布が被せられたように眠る



わたくしの渇いた吸気には静止した時間の粒が
きらきらと混じっているように
誰一人としていない夜の網戸に梳かれて
天秤も動かない
無人の大地へと足裏を移していく
もちろんきみだけは星だ!
らんらんと輝く生命の汁を垂れ流している星だ!
それでも夜闇のカーテンは
意識を池の中にぽちゃんと捨てて
黒い波紋の水糊で塗り潰してしまうから
星のことなんてすっかりわすれている
でも眩しいくらいに張りついている
瞼の焼けた白のなかには焼きついているきみ!
それでもわたくしの乾いたバケツのなかに立って
鳴り続ける鉄の響き
独りの時(トキ)の反復
波のような孤独
開かれた孤独
閉ざすのではなく開くのだ!孤独!
夜を満たす水のような闇
耳も眼も心も全部満たして開ききってしまえ!
それでもなにも聞こえない
なにも見えない
なにも映らない
その時その水たまりに浮かび上がる画(エ)が
沁みているその場所!
きみの足の裏にはりついて反転した大地で
僕は足と足の裏を合わせて
きみと握手する
その瞬間!僕はナミナミとして
きみの口へと流れ込む
盃の舌となる