氷樹ノ森山











 

その日、山には巨大な氷が落下した
木々の合間に突き刺さった幾つもの氷塊が
オーロラの薄衣をひょいっと濡れた風にあわせて纏っているような
ひかりの揺らめき
千年の井戸底の水脈を汲みとった
亡霊の着衣のような凍えた光を放って
そこに突き立っていた
 
わたくしは緑燃える森の中にそそり立つ氷石の
氷河の中で眠りつづけた幾万年の時間
その堆積が織りつづけた
光の十重の発光する鈍い融けるような時間の重みに震えるように惹きつけられて
その場を動くこともできず
ただ魂の内部まで舐め尽くされてしまったように
膨らんで昇華されていく大気
氷塊の氷皮が剥がれ森の深度へと離れていく様を
森の身体
大気の一部となって
見つめているのです
山は魂の鎮魂の蒸気を漂わせるように
今までためこんできた命の細り火を
その氷肌に立ちのぼる白い震えの被焔として
なめらかな先端
水が走るような氷塊の火先から
空へと送りだすのです