硝子塔




























くわい くわあい

クスノキに登る

透夢をなでる手で

かんな屑にもぐる

目頭が熱くなってきたぞ

わっぱりの夜に

崩れ落ちる緋塔

クチビルの切れ端に舌がひっかかって

昼が過ぎた

 

硝子塔は

うす緑に風景を切り

空も封刻される

小鳥が一羽だけ

硝子塔のなかに

肛門を塞がれた小鳥は

排泄することができず

生きたえる運命だ

小鳥の鳴き声も厚い硝子の外にはとどかない

それでも小鳥は鳴きつづけているようだ

硝子に覆われた空気の塔は

それひとつで熱い呼吸のかたまりのように

小鳥をのみこんでいる

小鳥は梢ひとつない宙を

空に向かって羽ばたきつづける

硝子に沿って上昇したり下降したり

止まることなく飛びつづける

地面には水が張っていて

ぴちゃんぴちゃんと小鳥の足をひやす

波紋はうすくうすく拡がる