孤島を打つ波頭 、薄青毛の白夢に













「孤島を打つ波頭」


孤島を打つ
波頭
 
きききいー
 
すぐさまにも
モミガラを洗って
洗って
 
はぁー、白米が山となる
 
呻く跳ねる小粒が
水に泳ぐ
種モミは底に沈む
とぎ汁はひひひとゆわんで
波頭が
 
青穂を撫でる風が
ナツの終わりを残していった
濁流を受ける
水路のバルブ下で
僕は呪詛を編む
 
シシシシシッと歯を鳴らし
口輪をはずす
歯もはずす
残ったのは死を食む口
 
氷のなかには
詩がねむっているよぉ
 
苺大福をかっさらえ
みんな喜ばしいことに
黴の気玉が屋根から降ってくるよ
 
僕はやわらかな黴の布団に埋もれて
くしゃみをする
わっと吹き上がった黴子がみんなの顔にあたる
みんな嫌な顔しても何も言わない
あきらめてるんだ
僕はあきらめてもいない
だから軽々と綱を渡る
おおやってみろよ綱渡り
僕はそうやって目の前の綱に
意識の糸を重ねているほうが
どれだけ楽か
拡散していく意識の紐解き
亡霊の階段を昇る
途中
体中を掻きむしる
こぼれる垢は血に飢えて
広がっていく皮膚
張った風船の
割れる音
ぱあん
海がこぼれおちた
波頭が
あふれた
ぼくは
湯気を追って
指を絡ます
ああ耳に流れ込む
完全な闇
猫が物干竿に吊るされた
がりっ
鳥の頭蓋骨を噛んじゃった
骨が砕けてはらっはらっと
落ちていった
口の中に
はりついた
はりついている
 

 

 







  
「薄青毛の白夢に」
 



皮膚に
染みついた
 
剥がれ落ちていった
皮膚に染みついた
シミ
 
すべてのごはんに含まれていた
血の歴史
 
剥がれた皮膚には
歴史の透霧が吸入される
 
剥がれおち漂う皮膚は
ひひと薄片に散り
大気中のうすめられた薄力粉になって
呼吸器を満たす
 
呼気は薄力粉まみれだ
 
歴史の灰燼
肺胞に住む
薄力粉に染まった記憶
 
嗚呼
脳内物質の銀河をかける
遺伝子のヒエログリフには
一文字づつに
幽霊が立ち上がる
 
その幽霊には
霊体たる薄力粉が
 
肺胞では薄力粉の霧煙に
霊視された写像
無限露光されていく
 
瞳の白体には雪が降る
原初の初雪から降り積もった
薄雪がすべて記録される
 
皮膚は垢になって
文脈から遊離した白黒写真の
肖像が伝える
暗い箱部屋の幽霊
 
蝋燭灯をふっと
吹きけした
 
頭のなかの明滅
幾層からも
降り積もる剥がれた皮膚の
幽体が
その一枚一枚に焼きつけた
経験的歴史と
そのさらに細かい構成組織の細胞室に
安置された遺伝子の見た
死に絶えた夢
闇に染みついている歴史は
同じ呼気の塵
薄力粉のなかに眠る
 
今まで死んだひとすべてが
保管される海が溢れだし
そのDNAに刻まれた夢と悪夢の
あまりの膨大さに
剥がれ落ちていった
意識は廃人になった
 
その塵のベールに咲く
花の記憶や死の腐臭
虐殺の凱歌やキスの縺れる舌や
熱い吐息を溜める頬や
 
正義、正義、正義の行ったすべての罪
虐殺の歴史
頭のスイッチをきった
暗闇で行われる
正義の儀式
血の祭典
虐殺の喜び
 
権力の入れ子構造に組み込まれた
胆汁の味が汚した
悪意
純粋な悪意は存在する
悪意は気持ちよく踏みつぶす
最も柔らかな心臓の
はみ出た人を
 
純粋な悪意は
悪意ですらない
それはスポーツだ
どれだけ強く
どれだけ深く
踏み付けることができたか
そのときのグランドは
人ではない
殺人徒競走だ
 
集団的悪意は
応援団だ
フーリガン
フーリガンは現実的声援によって
暴力を投げつける
 
悪意は連鎖する
当事者と当事者のあいだには
その悪意の力学的エネルギーの
発生の場が関係ないという意味において
純粋だ
 
蓄積された悪意の決壊のきっかけたる
弱者のサインがあるだけだ
 
悪意を生み育てる温床
黄昏の吹きだまりに
情報化社会の無像
切り刻まれた部品の生が
死が
隠し味に一滴たらされた
 
膿が涙をとおして
あふれだす
俺の中にも溢れる悪意
蹴れ
蹴れ
 
乳房の膨らみが宿す
色めき立つ曲線
思い出の実は
芳香を放つ
 
寂しい
視られる女体の
裸体が
視線に包まれて
繭のように光を滑らす
 
壊れたランプ
削いだ肉を乗せて
はかり売り
 
ガッシャーンと
アラスカで

十年前の球根が
生き絶える