目が射る












こぼれそうな記憶の底石の平らな裏側にはりついたカワゲラのような
小さな幼生記憶が 水すましをかけめぐった
つまようじの先が掻いた波紋と
ぽつぽつと落ちた雨の両方が刺した鉄の針
その同心円の水表につきたてられた糸柱によって
空は渇きを癒す
たちのぼる霧雨によって 光の貪欲によって
雲海の扉は開かれた 光線
落下した光の砲丸は地表の熱を激震させる
波立つ身体は熱線の揺れに眠りを憶えた
冬心の空は澄みきった涎を光りに混ぜて
僕らを塗りたくる
陽射しのリップで塗りたくられた僕らは
半跏した反射板のように空を発光する
合図
きみの胸に墜ちた
わたくしの夢体は
すっかり腹のなかで消化されてしまったのか
天河の白煙ほども見えない
それともわたくしのなかに突き刺さった鍋底のように
丸く尖った肉でできたナイフの重み
遮蔽物の禍根によって
なまくらになったわたくしがきみの鋭利な無に登って
空の上澄み
水表を引きずる風のはこぶ
光の雲母の張ったやさしみの被膜に
体を浸すことができなくなったからだろうか
ああ きみから射す光の
それは春の陽射しだったはずなのに
わたくしの心は泥水のように重さを増してしまって
その濁った光をガラスケースごしに触っているようだ
わたくしの天然ガス
吹きすさぶ山頂の風に洗われて
落下するきみの幾つも降ってくる骨のない鳥の身体を抱きとめて
接吻をもって息をふきこみ
砂浜に破れ着く波のように
音の揺りかごに眠る日
わったくしはっどこに潜ったら
その洞窟を掘りすすめ
きみの正確な手を握ることができるだろうか
焼かれた過去の硝煙を払い
わたくしは素潜りへと飛び込む身体となって
夜を泳いできみへと辿りつく
わたくしの透明な器ときみの透明な器がグラスを打つ音
陽射しを汲んだ水槽になって夜を弛ますように