刻の暮
嗚呼なんていう美しさ 刻の暮 大気はすべてを飲みこんでいた 湖は氷りついたように にび色にゆらめき 鉛の底を這いずる山椒魚のなめらかな体表のように 深く鈍い光の皺が大気の底でうごめいている つらなる山はまるで地表に横たわる巨人の黒い肌 その暗い憂いを 纏った粉雪の薄絹にひたして 静かに深い寝息をたてる その低い吐息にふくまれる夜の霧 沈殿性の漆黒 そのひとつ手前の大気の艶のなか すべてがにび色だ こおりついたにび色だ なぜこの刻にきみはここに 大気の中に氷づけにされるように 影に足をつかまれる この雪路の隣にいないのか