メモ




















手を添えて考えてみよう
思い出の小箱のなかのかわいた音
てざわりに擦り切れた木箱のぬくもり

端書きの紙切れの文字が生き生きと
語り出す
夜街灯の傘の下
降り立つ光の輪ッかのほわんとした
黄色の中に
きききと回るコンパスのくきっとした影
突き立てた針がコンクリートのすべらかな肌を削り
何書きもするえんぴつの線が




山木立に薄化粧の雪山は内側からひかっているみたいです

雪粒がアスファルトの道路にすっと吸い込まれて消えていくのは

粉雪が枯木立を縫ってふわんと景色をゆらすのは

新鮮な雪景色ってやつですね


新雪をにぎるときのくくくっとかたまる
やわらかな 雪 は
好き に似ている



ほそぼそと
香りのない眼で
慕うように唇を震わす
触れた跡が記憶を吸って
泡のように膨らんで
ぽつぽつぽつと実をつける
きみは想うだろうか
その肉のなかに咲く花のふくよかな花びらの
染めた時を
そこにながれた熱の引いた線の
行く先を
きみに近づくと僕は柔らかくなってしまう
きみに触れようとすると僕は優しくなってしまう

ぼくは優しくふれたい
人にやさしく触れることでぼくは自分を癒すことができる
ぼくが触れることを許してくれる
ぼくが触れることを求めてくれる
そのきみのやわらかさがぼくにはとても必要なんだ
ぼくはきみに優しくふれることができる
そんなふうに人に触れたことなんて
今までなかった
きみの弱さにふれるとき
その繊細さにふれるとき
ぼくは大切なものに触れることができる

ああそんなふうに曖昧で
儚く風に吹かれただけで消えてしまいそうで
それでもつながっていけるって
そんな静かな触れ先にだけある
やわらかな春風の駆けていくような
浮遊感







氷が流れている
細い水流にのって
冷えた透明な小川



今について

コイルが巻かれ回りだす
赤銅の黄金が反旗をひるがえすように

整列の行進隊がぴたりと止まり
合わせた足先からぴんと立ちあがった
姿勢のひりりと皮膚を噛む冬風
血潮を隠す皮膚の張った体操服の
真新しい洗濯さわりに
赤白帽のゴムひもが捩れながら歯にしみて
唾液に濡れたゴムひもが不意に
ぴしりと肌を打つ

空は脳食い羽虫の群雲に不安げな青を鳴らしている
頭の上にぴたりとはりついた
不気味な雲が耳の穴をねらって
吐く息の二酸化炭素を追ってくる
いっせいに耳の穴をとおって黒い細かな影が吸い込まれ
脳の中が真っ黒な羽虫の蠢きに変わった
僕の瞳はひっくり返って
透き通った冬のさみしさを
湯気立つ血糊で埋めてやるべく
校舎裏の学校菜園のへちま棚の所に立てかけてある
柄の長いスコップの冷えた木の皺を手のひらに食い込ませて
朝礼で整列した体操着姿の小学生たちを
斜めに裂きながら
一直線に同級生の真っ白な列の真ん中あたりの
白帽をかぶった柔らかな頭にスコップのまあるい方を下にして
きれいに叩き降ろした
血は吹き出なかったが
ごおんと鈍い響きがスコップの金属と木の柄を伝って
熱くなった身体を貫いた
そのまま灰色の角ばった砂粒が散らばったグランドの
どこまでも硬い地面を伝って
どこまでも
どこまでも
遠くまで響いていった
震えているのはさむいからじゃないと
空の青の深さを測るようにじっと真上を見つめた瞳には
幾羽もの黒い羽虫の群影が映っていた

 





 










あまりにも酷い



ぼくはいったい何してるんだろう 
雪と遊ぶ子供はすっかりと遠くに眠り 
その子供に手を引かれることもなく 
唾棄すべき電飾の飛礫を瞳に沈めつづける 
底には何もないように身体の中はソフトスカルプチャーのような 
脹らみですごく狭くなってしまったみたいで 
そこには足りないなにかがある 
膨らませた透明なビニール袋と空気みたいにさみしい 
どこが始まりだったのか 
その場所の形に気持ちを畳んでいくことができないからか 
なにかが壁の間を走りぬけ隙間へと想いを運ぶ 
ぼくの中を流れるくだり 
ものがたりの風音(ふうおん)が響かない 
血流のような熱い脈動かと思ったらふいに 
無音の部屋がぴりりとして 
空っぽな壁と床をかけていく 
透明な無の断層が身体ごと部屋を 夜を 貫いて 
空音(くうおん)が満ちた光りをすべて集めて 
目と頭の隙間にすっぽりとあいた瞬間に真空を作り 
時間は空間をすっとばし意識は光のシャワーを浴びたみたいに虚無と握手した 
引き連れられた身体(シンタイ)は 
時の運河に運ばれた疲労に満たされた眠りに落ちることを想う 
だったら入り口はどこだ入り口は 
始まりがないのは終わりがないからだ 
それでもおかしな自己という私に触れる私の外壁をなすもの 
何かが食べたいのにお腹は減っていないのです 
ぼくは何が食べたいのでしょうか 


まず部屋と話をしようそれから雪と寒さと大地と
それからそこに生まれるべき子供について



身体的精神と場の外部的精神壁

肉体に内在する記憶的精神地脈

身体の天然化

身体の器を世界に接続する

そこにながれる無意識の海の潮流を支えるだけの

堤防的な精神の熱量

接続点、堤防

防波堤、波、波形、

精神と精神の接続

接触点、潮流のつたう触れ先

物質、触媒、媒介物質との接続点とその場

その平面物質に吸い上げられていく
水分










はじがないみたいだ

また崖の話か

はじっていうのは暗闇で手を伸ばした先の壁とか

叫んだ声を響きかえす壁とか

とにかく抵抗感、反響

微妙になだらかな打ちっぱなしの分厚いコンクリート壁に

体を打ちつける

体当たりを冷たく重く突き放す肉と骨とコンクリートの祈り

壁の中を泳ぐ幽霊魚を手づかみで引きずり出す為の行為

体を半分壁の中に埋め込ませるように痕を打つ

半透過した灰青色の死んだ魚は壁の中で非常に緩慢にだけ動く

まるで化石の模様みたいに

この部屋の眠りしずんだ空気、海底の青藻に覆われたゴミたちを

温かな春風のような息吹をもって吹き流してくれる

つむじ風さんはねむっている