「誰も知らない」を見て

 
 
 

涙がない
朝起きる時に母親が流すひとつしずくの涙しかない 渇いている 

YOUが出ている時のこれはフィクションなんですよという
世界から母親が去ってからの子供だけの世界のリアリティに引き込まれていく構成のすばらしさ
ただだまって耐え続ける兄妹たちの姿にどんどんとなにかが溜まっていく
見ているとどんどん溜まっていく
あのまばゆい庭 の光のあまりの美しさ
涙が染みだすような感じだ
ラストシーンもいい

でもいちばん大切な最後のシークエンス
妹の死だけはだめだ
実際の少年は知らない、だけど柳楽優弥はもうすでに
あの心に焼き付く美しい笑顔の妹を助けることができたはずだ
いくら精神が追い詰められていたとしても
母親に助けを求めることができなくても
彼なら救急車呼ぶなり助けようとしたはずだ
それによって彼等が引き裂かれることになったとしても、
もしたすけることができなかったとしたらそれには理由が必要だ
でもその理由は描かれていない、だから僕は納得できない
ゆきは死ぬべきじゃなかった
もっとも死んでほしくないひとが死ぬという映画のメソッドがあったとしても
是枝はだめだと思った、でも終わった後パンフレットで、実際に末娘の死で事件が
幕をとじたと知るが、映画は現実に補完されてはだめだ

もう映画のなかの少年はそこまで生きていた
現実を映画が超えるべきだった
この映画はなにも起こらないまま終わるべきだった
もうそれまでに充分すぎるほどすばらしかったのだから
まばゆいうつくしい光の庭と光の部屋
そこで暮らす兄妹たちの心を射抜く表情の美しさ
それはタテタカコの宝石がうたう
澄みきった虚無感のような空みたいに

それでも事実にそって描きたいというならそれは演出力不足だ
それはきっと是枝監督もほんとはわかっていたんだ柳楽優弥はもう妹を助けてしまうぐ
らい強く映画のなかで生きづいていたことを、だけど彼は踏み越えられなかった、だか
らリアリティのない事実をなぞるだけの、そして人の死で終わるというもっとも安易な
構造の演出になってしまったんだ
現実に支えてもらってはいけないんだ 哭け
だから柳楽優弥は最優秀男優賞で作品にはなにもなかったんだ、あと一歩ですごい映画
になっていたのに、いやそれでもすばらしい映画だった口内炎が治るぐらい集中して見
たよ
高円寺がロケ地で知ってるとこもあったし
って思いました僕は