黒いピラミッド
わたくしの中には黒いピラミッドが3つ浮かび上がっている
まだ暗い古絹の灰色のような忘朝
もしくは晩鐘の響きのように鈍い闇
陽射しが滑るように走り去っていった
後ろ姿に心が凍るような夕闇に
停止されたピラミッドは
すき絹で闇を掬いとるように
暗い水を滑らしても
その存在はぼやけた影の集合体のように
堅さを伝えることはない
まるでそれは小さな羽虫の群れででもあるように
一瞬のうちにうねり 動き出しそうである
そこが枯れていく肺の末期音
荒れ野の潅木が鳴らす不吉な風音をたてて
生を崩していく夜の微生物
灰色の球体を中心にしたブラックホールのようでもある
(エミリー・ディキンスンの詩集を手にとって)
それがわたくしの渡る?
わたくしと顔というそのもうひとつの現実の表皮とをつなぐ橋
その現実という非常に薄い被膜
忘郷の夕闇に生息する
吐膜のような破れやすい水びたしの膜
濡れ紙 金魚掬い網 ホイのようなもの
そのような夕闇に張りつめた膜でつくられた橋
がそこに架かるのなら
紙 支持体 平面
そこがわたくしの水平面に落とされた
薄絹 薄紙 に浮かび上がる風景
顔と顔をつなぐ橋である
(アントナン・アルト−の素描集を見て)
わたくしはほとりを結びたまうもの
星が崩したものが
細葉の集合体
緑の夜景には含まれるというのに
わたくしの眼を誘拐していく万物のくぼみに抱かれて
わたくしは眠るのです
眼をつむったまま
あなたの耳もとで反響する
わたくしの指にのった満月のように
それは生の純白のように
つかみとった手に響いた
晩鐘のしびれ