春の道 薄暗いバー

 
 
 
 

 


スペインかどっかの片田舎でさ

小さな現代美術館に行った時なんだけど

やってきたはいいけど

どこに美術館があるか全然わからなくってさ

こまっちゃって

一軒のバーに入ったわけ、

そんでカウンターに腰かけてコーヒー一杯頼んで

しゃべれないスペイン語でもって美術館はどこにあるんですか

と尋ねてたわけ、

そしたらなんとか話は通じそうで、どこから来たんだ?日本からだ、
なんて話を色々してたら説明するより一緒についていってやるよと、
そこにいた客の1人が美術館まで来てくれることになって、
じゃあいこうと2人で歩き始めたわけ、
それでなに話したかもう忘れちゃったけど簡単な言葉でとつとつと話していたら、

ああ しまったあのバーでコーヒー代はらうの忘れてたぞ、と
思いたって、

まあ帰りに払えばいいかと、春の陽射しの草木のはえた草原の
道をそのおじさんと歩いてたんだ

それでこの道まっすぐ行ったら美術館だ、という分かれ道であ
りがとうと言っておじさんと別れて僕は美術館を見た。

それで来た道を戻ってあのバーに入って、

すいません、コーヒー代払い忘れたんですとお金を払おうとすると、
バーのマスターはいいんだ、
と言ってお金を受けとらないんだ

日本からわざわざこんな所まで来たんだからって、

受けとらないんだ。

だから僕はお礼を言って店を出た。

僕はなんだかすごくうれしくて、もう4年も5年も前の話しなんだけど、
その時の記憶は温かい春の日の緑の道とか、
うす暗いバーの感じとか、ずっと僕の中に残っているんだ


そうこの記憶はなんか残っていて、でもなんでそんなに残ってるんだろうと思っていたんだけど、
高速バスに乗って眠って起きたら思い出したんだ、そういうことだったのか、
と胸があつくなって、そう僕はあの頃一人で旅先で色々な温かいものに触れて、
受けとったものを僕は、僕のできるかたちで返さなくっちゃいけないって思っていたんだ。